備蓄米の放出先や経路 米不足の理由と減反政策
備蓄米の放出先や経路 放出価格について
政府が備蓄米の放出を決定し、今後のお米の価格が落ち着くか
注視されています。他のページでも記述していますが、ここでも
備蓄米の詳細について記述してみます。
備蓄米制度は日本の食糧安全保障の一環として導入されました。
現状の備蓄米制度の基礎となる政府備蓄制度は1995年に施行された
食糧法に基づいています。
1971年、昭和46年に「食糧管理法」に基づき、政府が米の価格を
統制し、過剰生産分を買い上げる形態で備蓄を開始しましたが、市場価格と
政府の買い入れ価格の乖離が生じて問題が発生し、1995年、平成7年には
「食糧管理法」が廃止され、「食糧法」が新たに施行されました。
ここから政府が一定量の米を備蓄する「政府備蓄米制度」が本格的にスタート
しています。

毎年約100トンを目標に備蓄が行われてきています。
2011年の東日本大震災を契機に、災害時の食料強化が見直され流通の
迅速化や品質管理も強化しつつ、政府は一定量の備蓄米を購入し、古くなった
備蓄米を放出、放出分は補充するという回転備蓄方式を採用しながら現在に
至っています。
備蓄米の放出先としては一般市場に出回るよりも飲食店などの業務用、
学校給食や海外援助などの方が多いようで、さらに古い備蓄米は家畜の飼料と
して利用されているようです。
今回の米不足と引き合いに出されるのが、前回の1993年度の平成の米不足です。
この時の不足は日本が記録的な冷夏に見舞われた事が原因で、東北地方を中心に
深刻な米不足にいたり、政府は緊急の備蓄米の放出を実施しました。当時は現在の
備蓄米制度とは異なり食糧管理法(1995年に廃止)の元に放出がなされています。
93年秋から94年にかけて市場に放出、しかし備蓄米そのものが不足していた為、
全国的な米不足を解消するには不十分でした。
そのせいか、時の政府は戦後初の大規模な米の緊急輸入を決定しています。
緊急の輸入量が約250万トン、輸入先はタイ、アメリカ、中国、オーストラリアなど。
この時の輸入では主にタイ米で対応したため、日本人に馴染みのあるコシヒカリなどの
短粒種(ジャポニカ米)とは食感が異なるタイ米(パサパサした長粒種のインディカ米)
に馴染めず、混乱も生じました。この時の経験から1995年に現在の元となる政府備蓄米
制度が整備されています。
放出の際の価格ですが、政府は定期的に「政府売渡し」を実施し、その時点での
政府買い入れ価格、市場の需要状況、米の品質状態や用途などを考慮して価格が
決定されてゆきます。
過去の実態では例えば2018年頃では備蓄米の放出価格は1kgあたり
約183円~216円、2023年の加工用向けの放出価格は1kgあたり
約167円にて放出されていたようです。
近年はこの加工用向けの備蓄米需要が相当に伸びている様子です。
今回の令和の米不足において、放出後の市場の米価格の推移が注視されていま
すが、過去には2010年に米価格が上昇した際、備蓄米の放出で価格の急騰を
抑えた実績があるようです。
今回の備蓄米の放出先として、そのほとんど(約9割)が、まずは農協に
行き渡ったとされています。
農協は入手した備蓄米を「利益を上乗せせずに各店舗に卸す」と公言した
ようですが、今のところまだ顕著な値段の下落は確認されておらず、米の価格が
例年並みに落ち着くかに関しては疑問視されているようです。
農林水産省の江藤氏から、「価格は市場で決まるもの」といった発言がありました。
これは、現在の米価格高騰に関し農水省は直接の責任を負わない、との発言にも
聞こえるのですが、備蓄米の放出は米の安定した供給と安定した価格設定を計る事が
目的のはずですから、この発言はいささか無責任にも聞こえます。米は有る、不足は
していない、流通業者が価格高騰を狙って市場に出さずに保管している、などの
発言もありましたが、実態はどうなっているのでしょうか。
現在は廃止に至りましたが、日本では減反政策といった政策が実施されて来ました。
減反政策とは 内容や原因
減反政策とは、日本国内の米の生産を制御、米の過剰生産を抑えるために政府が
実施した米の生産調整政策です。農家に水田の一部を休耕、または他の農作物への
転作を奨励し、米の供給量を抑制することを目的とした政策になります。
この減反政策の開始は1970年、昭和45年に本格的に導入され、2018年、
平成30年に廃止に至りました。戦後の食料不足を補うため、時の日本政府は米の
生産拡大を推奨していましたが1960年代後半には米の過剰供給が深刻化し、政府の
買い上げコストが嵩んだ為、米の生産を制限し、米の一定価格を
維持する、多角的な農業促進のため、などの目的で減反政策をスタートさせています。
減反政策の内容は、全国の農家に米の作付け面積を減らすよう求め、割り当て目標
(転作面積)を設定、そして減反に協力した農家には転作奨励金や水田活用補助金などを
支給、また、米を作らない代わりに大豆、小麦、野菜などの転作を推奨していました。
この政策は1970年代は一部の農家が自主的に参加する程度でしたが、
1980年代には減反参加が事実上の義務化となり、実質的に強制的な生産調整が
行われるようになっています。
これにより、米以外の農産物、大豆、小麦やそばといった品々の生産は増加、
米の価格が維持されるようにはなりましたが、農家の自由度は制限され、農業全体の
競争力も低下したとされます。
なぜ日本でこのような減反政策という不自然な政策が行われたのでしょうか。
諸外国を観ても、農産物の輸出拡大が成長の鍵とされていて、米国、ベトナム、
オーストラリア、タイなども世界市場で米を売ることで成長を図っているとされますが、
日本は作らせない、生産しない、といった政策を敷き、これに補助金、協力金を出す
というおかしな形態が出来上がっていました。
生産しないことに協力金を出すというのはどう考えても不自然です。
この減反政策の原因・理由は、元々はアメリカの食料戦略、日本への小麦導入計画に
あった事が感じられます。戦後の日本は厳しい食糧難にありましたが、アメリカでは
余力のある小麦を日本に消費させる食料戦略が練られ、実際に日本の学校給食などに
パン食と牛乳がもたらされました。
戦後の物資に乏しい日本ではアメリカの食料戦略に抗うことは難しかったのでしょう。
小麦導入の結果、日本では主食の米の消費が落ち、従来の米の生産量を落とす為に
減反政策が取られたのではないでしょうか。食糧難を立て直すため、政府はコメの
生産拡大を奨励していましたが、1960年代後半には食料事情の回復が整い、
逆にコメの過剰供給が発生し政府の買い上げコストが嵩んだため、減反政策が本格的に
スタートした事が伺えるのです。
アメリカからの食料戦略があったとはいえ、政府の対応には
問題があったことが感じられます。
生産、供給能力を重視せず、不自然な減反政策を長年行なった結果、現在の米不足が
はっきり顕著に現れてきたと言えるのではないでしょうか。

農水省は米の不足に関し、「流通業者が米を留め、停滞が生じている」との見解で、
現時点ではまだ米不足を認めるような見解は出されていないかと思います。しかし、
本当にどこかに停滞している米が隠れているのなら、それは農協に匹敵するような
組織がお米をストックしている事になるかと思います。
米の価格高騰を狙い、転売で収益を上げる目論見で米を隠しても、米の保管には
空調の管理など維持費にも相応のコストがかかり、雑な保管でお米にダメージが
発生した場合は売り物にならないというリスクを孕んでいます。専門の業者でも
ないのに、一時的な利益のためリスクのあるお米の大量購入を行なって保管しておく、
といった事が所々で行われても、全体量の不足が顕著になる程大規模で行われるとは
考え難いと思えます。
また、お米にはトレーサビリティという追跡調査が可能なので、実態が
不足であるか、隠れたお米があるかは判明が可能なはずです。
不足の理由、原因としては長年の減反政策による生産量の調整の影響、
インバウンド需要の増加、消費者の買いだめや流通業者の買い占めや出し惜しみ
など諸事情考えられますが、今回の米不足の実態は流通の停滞ではなく、本当に
お米がない、状態ではないでしょうか。減反調整政策の結果が現れてきているのです。
アメリカの食料戦略により、難しい食料事情を強いられたとはいえ、日本は減反政策
により自国の稲作、農家の方達を相当に不自由な境遇へ追いやってきたのではないか
と感じます。減反政策は現在は廃止に至っているとはいえ、実際には現在も農協から
農家へ稲作の目安量のようなものが配られ、それと異なる収穫量は出しにくい、
といった雰囲気があるそうです。長年の政策により、今だに農家の方々が作る自由、
売る自由がかなり制限されているのでしょう。
備蓄米の放出先も約9割が農協、これは備蓄米の売り渡し会(入札)には
下記の条件があるのでどうしてもそのような結果になりやすいのですが、
こうした形態により農協がお米の流通、経路、価格決定において相当な
影響力を持っています。
政府備蓄米の売渡は「入札方式」で行われていて、参加資格は以下になります。
・ 農林水産省に登録された「登録販売業者」であること
・ 一定の取扱実績や倉庫などの設備要件があること
・ 大量(トン単位)での取引が前提
したがって、個人経営の小売店や中小規模の事業者が直接参加するのは難しく、
多くの場合は「農協」や「米穀卸」などの登録業者を通じて仕入れる形になります。
今回農協が備蓄米を落札した値段は60キログラム当たり2万1000円とされます。
価格の安定を考え、今回の備蓄米の流通には利益を載せずに各店舗へ卸す事が
公言されていますが、もちろん諸経費は含められるでしょう。消費者の注目も
ありますので高騰化はしないでしょうが、備蓄米の放出による価格の値下がりは
しばらく見込めないのでは、とも感じます。
なぜ米の価格が下がらないのか? その理由
米の価格が下がらない理由は複数考えられます。
- 今回の放出量は小規模で、市場全体から見れば限定的
- 流通段階でのタイムラグ
農協 → 卸 → 小売店 → 店頭価格、までには時間がかかる - 需要の戻りと季節要因
外食・観光需要の回復、春の行楽需要が底支え - 店頭価格の粘着性
一度上がった価格は、下がるまでに時間がかかる傾向がある
米不足の理由や減反政策の原因などについて考えましたが、米不足には
やはり長く続いた減反が大きな要因になっていることを感じます。これは
前述のようにアメリカの小麦戦略も有った訳ですが、日本の対応もあまりに
安易な対応を続け過ぎたように思えます。減反政策について、小倉健一氏の
手記に以下のような記述がありました。
このような政策を長年にわたり推進してきたのが農水省であり、それを政治的に
支えてきたのが自民党である。農家の自主性を奪い、競争を否定し、行政と農協による
統制経済を築いてきた。農家が独立して市場で勝負する機会は奪われ、設備投資も進まず、
技術革新も停滞した。その結果が、農業全体の衰退と米の供給能力の低下である。自民党と農水省の農業政策は、農家の自由を制限し、供給力を抑える減反政策を続けてきた。
食料安全保障を確保するには、自給率100%を維持するのではなく、120%や140%といった
余剰分を確保し、飢饉や不作の際に国内供給を安定させるほうが合理的である。農家に自由を与え、
競争力を高めることで、日本の農業全体の生産力向上につながる。しかし、政府は依然として
規制を続け、農家の成長を阻害し、食料安全保障を脆弱なものにしている。
滞留ではなく、お米が本当に足りていないのではないか、供給能力が
低下しているのでは、との点は鈴木宣弘氏も警鐘を出されています。日本は食料自給率が
現在40%以下となり、食料問題が切実になっています。