オーガニックビレッジ宣言のデメリット       問題点の事例

みどりの食料システム戦略が有機農業を推進

農林水産省が、「みどりの食料システム戦略」を策定、これが2022年4月に
国会で新法として可決・成立し、今後農政はこの戦略の実現を目指しての動向が
予測されます。

みどりの食料システム戦略の概要の一つとして、有機農業の取り組み面積を25%、
100万ヘクタールへと拡大、といった目標があります。

この目標実現のためか、農水省も後押しして進めている
オーガニックビレッジ 政策があります。

オーガニックビレッジ とは、生産、加工、流通、そして地域の消費者にも
参画してもらい、地域一体となってオーガニック=有機農業を推進してゆく、
と宣言する市町村のことです。

児童の学校給食に有機農産物の利用を促進するなど、現在オーガニックビレッジ
宣言を公表している市や町が観られ、農政もこの宣言を支援する動きが観られます。

EU諸国でも有機農法を拡大する政策が示されています。

残留農薬の心配がないオーガニック作物が増産されるのは結構なことだと思い
ますが、実際に宣言を出した市や町に、デメリットというか問題点はないので
しょうか。

ここでは宣言を公表しながらも問題が発生した事例を記述して観ます。

行政は従来の慣行農法と有機農法のどちらを支援するのか?

現在、国内でオーガニックビレッジ 宣言を公表している市や町は
約50地域あるようです。

愛知県南知多町も宣言を出した町で、有機農業を支援、実践もされています。

この知多町の大深という地区が小高い丘の上にあり、周囲に民家などもほとんど
なく最適な環境にあるとして、有機農業家のIさんがこの地を活用して有機農業の
学校のような拠点を作れば新規就農者や移住者も増えて地域活性化につながると
考え、その構想を町に提案、町側も歓迎し、配食サービス会社など他業種も交えた
連携協定がなされ、後に県内で初の「オーガニックビレッジ宣言」を公表しました。

役所、有機農法家、食品関連業者、流通業者などが連携して取り組む形態はまさに
オーガニックビレッジ宣言の理想的な在り方を示しているようですが、この後に混乱が
生じ始めたようです。

Iさんがこれから有機農法で役所やその他の業者と連携を取りながら有機農業を
進める意向でいたところに、借りている有機農法耕作地の一部を、他のとある牧場
経営者に売却するという話が知らされ、売却話を全く感知していなかったIさんは
役所や関係者に事実を確認して廻ります。

その結果、売却話は事実のようでしかも急な話ではなく、少し時間を遡った時から
検討されていた話であったようです。役所、他業種も交えてビレッジ宣言まで出して
いる一方で土地の売却話が進んでおり、しかもIさんにはその件が全く知らされて
いない、これだけでもIさんが役所に不信感を抱く様子が伺えますが、ともかくもIさん
はこの件に関し町長と何度か話し合いの場を持ちその結果、Iさんが直接牧場経営者と
協議すべきだという提案が役所側から出されました。

これに対しIさんは、役所が主体性を示してくれない状態で自身が経営者側と
直接協議を行うのは筋が違う、との考えからこの提案を拒否されたようです。

こうした経緯を観ると、オーガニックビレッジ宣言がデメリットというか
非常に難しい問題点を孕んでいることを感じます。

Iさんは売却の候補地を「自身が購入し、いずれ町側に寄付という形で返還する」
という提案まで出されましたが、役所側は「まずはIさん、牧場経営者のお二人で
協議してほしい」との姿勢を変えなかったようです。

役所の担当者は「町としては民間の取引に口出しできない中で仲介に立ったつもり
だが、当事者のお二人が膝を突き合わせて話し合う場が実現しなかったのは
残念だ」とコメントされています。

ほか、「町としては有機農業者も慣行農業者もどちらも大事にしたい立場で
互いが農業をやりやすい環境を整えてゆく。Iさんが提案された有機農業学校の
ような提案は関係者の検討会でよく議論してゆきたい」ともコメントしています。

Iさんは当初知多町に移住して住民票も置かれていましたが、この件があってから
会社も住民票も町外に移されたようです。

ビレッジ宣言を出し、協議も進めていながら役所側が支援の立場を明確に示して
くれない(当事者で協議してほしいとの姿勢)のはこの地での有機農法の取り組みを
躊躇させるのではないでしょうか。

オーガニックビレッジ 宣言は取り組み内容や規模に応じて交付金が
出されるケースもあります。

今回のケースに交付金が出されていたかはわかりませんが、交付されていた場合は
さらに事態を混乱させたのではないでしょうか。

「今回の件でわかったことは、僕たちのような耕作者が与り知らないところで
農地の売買が進み、行政や農業委員会の仕組みでは利害調整できない現実があった
こと。これでは土作りに時間がかかる有機農方家や、地域コミュニティーとの接点が
少ない新規就農者にとってはリスクが大きく、また同じことが起こりそうな
気がする。」

これはIさんのコメントです。   

有機農業は農薬使用を控えるせいか、どうしても虫が発生するなどの点で周りの
農家や民家に影響を与える一方で、逆に周囲の慣行農業で散布される農薬を防ぐなど
の考慮が必要です。

オーガニックビレッジ 宣言は行政が有機農家と慣行農家の折り合いの調整をつけ
ないと事態が混乱する要素も多々含まれているように思えます。

自治体職員の有機農法への理解は?

兵庫県丹波市もオーガニックビレッジ 宣言を出し、その後問題が発生したようです。

事態の経緯を大雑把に記述して観ます。

丹波市のとある畑を、市の地域おこし協力隊職員を名乗る人物が「研修で
使わせてほしい」と利用権を持つ農家の元へ相談に来たそうです。

その畑自体は、所有者が当時丹波市から転居しており日々の管理が
できないので、顔馴染みである農家の方に利用権を設定して管理を任されて
いたようです。

そんな経緯から、職員が利用権を持つ農家さんの元へ相談に訪れ、
利用権は変更しないが職員がその畑を使用しても良い、との話に至ったようです。

職員はその後畑を利用し、マルチ(耕作地を覆うビニールや藁)で地面を覆う
などの作業をしていましたが、ある日突然行方知れずになったようです。

畑は途中で放棄され、マルチが貼られたままの状態で雑草も伸びしばらく
放置されていましたが、後年に有機農法家の方が「その畑を使用させてほしい」
と申し出て、ではまずマルチと雑草の処理を行いましょう、となり、マルチは職員が
貼ってそのまま放置したのだからこの処理費用は行政が負担すべきでは?との判断で
行政に相談したところ、利用権を変更せずそのまま職員に使用させた農家さんの
責任として費用もそちらでご負担ください、と返答されたようです。

これには釈然としないまま、どうしよう、となり、この件が丹波市のある議員さん
に相談がなされ、議員さんが後に議会で議題にあげて答弁を受け、市長から
「私も現場に行って状態を見て、トップダウンで解決します」となりました。

問題はこの後の事で、現場のマルチを剥がすため、まずは雑草の処理を行う
との事で現場に除草剤であるラウンドアップが散布された事です。

ラウンドアップは現在世界的にも人体に悪影響ありとして
問題視されている除草剤です。

この除草剤を現場で散布した事により、使用を希望していた有機農法家の方は
その畑を少なくとも数年間は有機農業として使用することはできなくなりました。

オーガニックビレッジ 宣言を公表していながら国際規模で問題視されている除草剤を
散布するなど、この件での丹波市長の判断は宣言内容と対応の著しい乖離を感じさせ
ます。

この件で相談を受けた前述の議員さんがネット上にこの件の顛末をより詳しく
掲載しており、議会での答弁の様子も動画で視聴することができます。

デメリットというか、問題点を挙げてみましたが、オーガニックビレッジ 宣言は
行政、地主、耕作者、参画している業者や地域の人々が有機農法推進という
第一目的を共有しなければ現場を混乱させる問題点も抱えているように感じます。