みどりの食料システム戦略 概要
オーガニック野菜や有機JAS規格について
現在の日本では国際社会で危険視されている農薬成分の許容量が緩和されたり、
農薬が添加物認定に変更されたりと、消費者もこうした事態を注視しておく必要が
あると思います。
最近は健康志向もあり、有機栽培やオーガニック食品がより注目されていること
を感じます。ここでは最近成立した新法の「みどりの食料システム戦略」の概要を
記述してみます。
この新法は2022年4月に国会で可決・成立し、2050年までに実現を
目指して以下の概要が掲げられています。
・農林水産業の二酸化炭素ゼロエミッション化の実現
・化学農薬の使用量を(リスク換算で)50%低減
・化学肥料の使用量を30%低減
・有機農業の取り組み面積を25%にし、100万ヘクタールに拡大
このような概要が掲げられています。
農薬や化学肥料の低減、有機農業の拡大は健康や環境の観点から結構な
指針だと感じます。
よくいわれる有機農業、オーガニック野菜とはなんでしょうか。
オーガニックとは、日本語では「有機」という意味になり、簡単には、化学的に
合成された農薬や肥料に頼らず、太陽、水、土壌、微生物など自然の力を活用した
農法や生産方法を指しています。

日本の市場でオーガニック製品として
表示するためには 有機JAS規格 という
国の基準を満たす必要があり、有機JAS規格の
概要は以下のようになっています。
・ 化学的に合成された肥料や農薬を原則として使用しない。
・ 遺伝子組み換え技術を使用しない
・ 種まきや植え付けを行う2年以上前から有機肥料などで土壌作りを行った田
畑で生産されていること
・ 周辺の畑から農薬などが飛来・流入しないように対策を講じていること。
こうした基準をクリアし認証を受けた物にのみ、消費者がわかるように
有機JASマークを記載することが許されています。
厳格な有機JAS規格ですが、この規格にはごく一部でですが天然由来の農薬の使用が
認められています。そのため商品によってはその農薬使用がなされた物もあるでしょう
がこの規格が記載された商品は厳しい基準をクリアした農作物になります。
ほか、無農薬野菜とは言葉どうりに農薬を一切使用せずに栽培された野菜と
いうことで、これは消費者に誤解を与えるとの事で現在は農林水産省によって
原則には商品への表示が禁止されています。
これは無農薬を主張していても近隣農場からの飛散や土壌の残留成分を
考慮すると、無農薬と断言できないからとの理由で、かなり厳しい様子が
伺えますが、「特別栽培農産物」との表示がされている商品は農薬や
化学肥料をその地域の慣行レベルの5割以下に抑えて栽培された農作物になっています。
有機農法の「有機」とは
もう少し詳しく 有機とは を記述してみます。
この有機という言葉が使われたのは、1971年に日本有機農業研究会を創立した
一楽照雄氏が初めて有機という言葉を用いたとされています。

アメリカでは J.I.ロデイルという方が自ら
有機農法を実践するとともに、出版社を
創業して農家向け、消費者向けに宣伝を開始し
「PAY DIRT (邦訳:有機農法ー自然循環と
よみがえる生命)」(1947年)という書籍を
刊行していますが、一楽氏はこの書籍の翻訳を
されています。
この頃は農業の近代化が進められ、生産性を
高めるため農薬や化学肥料を多用する
農業が全国的に行われていました。
経済高度成長の波もあったのでしょう。
こうした農業形態に対し一楽氏は「消費者に残留農薬による健康被害を与え、
各種微生物を死滅させ河川や海洋を汚染し、環境破壊を招いている」として、
漢書の「機農」にある「天地に機有り」から農薬に頼らず自然環境による農業を
有機農業と名付けたといわれます。 機 とは大自然の運行の仕組みの事で、
自然の理を尊重する、自然の側に基準を置いた農業が本来のあるべき姿である
と示しています。
当時は利潤追及で、作物の人体への影響や環境への配慮は優先順位が
降ろされたのでしょう。
実際、有機農業などを主張・試みる農家は奇人変人・変わり者とみなされる
風潮があったようです。
1974年には有吉佐和子氏が「複合汚染」を発表し農薬、化学肥料、合成洗剤
などで汚染された日本の現状を告発されてもいます。
有機米給食や地場産給食
最近はオーガニック野菜や特別栽培農産物がより消費者に
望まれているように感じます。
地産地消や有機栽培に関しては、例えば福島県熱塩加納町などでは早くから
(1979年)週5回の米飯給食を導入しており、地元の「さゆり米」を学校給食で
使用、その他にも地元産の農産物が多品種に渡り給食に提供されているようです。
ほか、有機米給食を実現させた千葉県のいすみ市、愛媛県今治市の地場産(米、麦、
大豆など)給食など、地方都市では郷土愛というか農家の方々や農協、学校、役場、
地域住民が協力し、地産地消の形態が築かれて来た例が観られます。
東京では約40年前に武蔵野市で始まった安全給食の取り組みが現在は全市で実施、
低農薬、有機肥料栽培の米と野菜、非遺伝子組み換え飼料で育てた鶏卵、国産丸大豆の
味噌など、児童達に安全な給食の提供のため食材には注意が払われています。
非GM(非遺伝子組み換え)の飼料で育てた鶏卵使用とはかなりこだわった食材選択
だと思います。
子供達の給食にはその時代の食品事情がよく反映されていると思います。
過去にアメリカが食糧において小麦戦略を敷き、児童の給食はパンと牛乳になりました。
最近はゲノム編集トマトが開発され、これを児童の給食に提供しようとする動向が
観られました。
そうした情勢の中で上記のように地方では地産地消や安心な給食の提供に地域社会が
務めて来たことは地元の活性化にも繋がる事でしょう。
みどりの食料システム法やみどりの戦略・概要の問題点
題名の みどりの食料システム戦略 を全国の生産者に普及して実現を
目指して成立されたのがみどりの食料システム法 です。これは2022年4月に
成立し、同年7月に施行されています。
みどり戦略の概要は冒頭に述べた内容ですが、化学農薬・化学肥料の低減と、
有機農業の面積割合を25%(100万ha )に拡大するという目標について
もう少し詳しく考えてみます。
化学農薬の低減は画期的で結構な目標に思えますが、詳細には「リスク換算」で
の半減となっていて、これは単純な農薬使用量の半減とは意味が異なります。
これは既存の農薬に変わり新しい農薬使用による農薬低減を目指す方針の様で、
この新しい農薬とは主にRNA農薬のことで、これは特定の遺伝子の働きを抑制する
細胞内のメカニズムで、この農薬を害虫が摂取すると生存に必要な遺伝子の働きが
阻害され、死に至らせたりします。
RNA農薬の問題は、標的の害虫だけでなく、ミツバチなどの益虫や人間を含む
動物の遺伝子まで阻害し、害を及ぼすのではないかと懸念されている事です。
他、この農薬は土壌で自然分解される一方で、土壌の粒子に付着して保護された
状態で微生物に取り込まれることが判明しており、土中の生態系に大きな影響が
懸念され、研究者からは利用に関し警鐘が出されています。
このように みどりの戦略 では農薬低減をRNA農薬に置き換えて達成しよう
とする面があるようで、これは環境に対する新たな危険性を孕んでいて、世界の
他の国々、例えばEU諸国が掲げている農薬半減とは方針に違いがある様にも
感じられます。
EU諸国でも「農場から食卓まで」との戦略で2030年までに農薬半減、
有機農業面積を全体の25%まで増やす方針が掲げられているのです。
現在の食品事情を観ていると、アメリカとEU諸国では指針に違いを感じます。
アメリカは遺伝子組み換え食品、ゲノム編集食品に対し比較的オープンな姿勢を
示しているようで、それに対しEU諸国ではこうした食品群には厳格な姿勢で
臨んでいる様子が伺えます。
また、アメリカは2020年に 「農業イノベーションアジェンダ」 を発表し、
その中で2050年までにイノベーションで農業生産量の40%増加を掲げて
いますが、この中で農薬削減は内容に入っていません。
ゲノム編集が起きるのは人為的だけでなく、自然界でも起こる現象なので安全面
でも問題無いはずだと認識する向きもあり、アメリカではこの認識でゲノム編集
食品を浸透させようという動きがあるようです。
自然界で起こる現象とはいわゆる、突然変異 ですが、これはごく稀に起きる
現象であり、人為的に起こされたゲノム編集は解析すればその痕跡から自然現象か
人為的ゲノム編集か、判別がつくはずだとの研究者の見解も出されています。
ゲノム編集食品が人体に対しどのような影響を持つのか安全面の確認は
まだ不十分とされます。
不十分ながら国内では現時点で安全性審査もなく、この点はアメリカに追従する
姿勢を感じます。
最近ではゲノム編集トマトが市場に流通を始めました。そしてこれを児童の
給食にも提供しようという動きが起きましたが、識者の方々がこれに警鐘を
出し自治体も慎重な姿勢を示している為、児童の給食への提供は防がれている様です。
市場ではトマトの他に、肉厚真鯛、高成長トラフグ、高成長ヒラメ、こうした
ゲノム編集魚が出回り始めていますが、現時点では安全性審査や表示義務の対象外と
されています。
人体への悪影響が無ければ良い、という人間側の都合だけでなく、自然界の生物に
こうした人為的な改変を加えることが後々どういった環境の変化を招くか、という
視点も必要ではないでしょうか。
みどりの食料システム法・戦略の <みどり> は、人体や環境に優しいもの、
との理念が込められている様です。
うたわれている概要は人体や環境に配慮した内容になっていますが、一方で農政は
世界的に禁止に向かっている危険な農薬の許容量を緩和(グリホサート )、あるいは
引き続き容認(クロルピリホスなど)されていたり、ゲノム編集食品も表示義務なし、
など安全面への配慮は非常に心許ない状況でもあります。
クロルピリホスは子供の脳発達に悪影響を及ぼす農薬として問題視されていて、
認知や運動発達の遅延、IQの低下、注意欠陥、ガンに関連し先天性欠損症を引き起こす
ことや、ハチなどの益虫に対しても非常に強い毒性を及ぼすことが知られてきています。
EUは2020年2月に禁止を発表、タイ、アルゼンチン、カナダも禁止に至りました。
アメリカでも2021年8月に農作物への使用禁止を公表しました。
日本では柑橘類、大豆、ジャガイモ、茶、玉ねぎなどに使用が認められています。
近年のデータからは農薬使用量増加と共に子供の発達障害にも影響が指摘されています。
私たちの食品環境がみどり戦略の概要に掲げられている通りに進展してゆくか、
消費者も注視してゆく必要を感じます。