遺伝子組み換えとは? また、遺伝子組み換えについての表示義務
私たちの身近な食品にはたくさんの添加物が含まれている現状になりましたが、
それだけでなく近年は遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品といった食品も出回り
始めるようになりました。
そこでこの、遺伝子組み換え食品とは何か、について書いてみます。
遺伝子組み換えがなされた食物は英語で Genetically Modified Organism の頭文字から、
GMO作物とも呼ばれ、日本国内でのこれら作物の現状は、商業目的での栽培はされていない
ものの、輸入はされており、相当な量のGMO作物が出回っているはずです。
遺伝子組み換え食品とは、なんとなく言葉から連想できると思いますが、別の生物の細胞から
取り出した有用な性質を持つ遺伝子を、その性質を持たせたい植物などの細胞の遺伝子に組み込み、
新しい性質を持たせる技術を用いて開発された作物及びこれを原料とする加工食品とされます。
例えば、除草剤耐性を組み込んだ遺伝子組み換え大豆は、除草剤を浴びても耐性があるので
枯れる事なく、安定した収穫を見込めます。このような形で、除草剤耐性や害虫耐性を持たせたり、
干ばつに強い、病気に強い、たくさん実が成るなど、有用な特性を持たせた遺伝子組み換え作物が
誕生してきました。
それまでの品種改良は、何度もの実験を繰り返し、数年、長ければ数十年の期間を経て
ようやく期待される品種を誕生させてきました。
遺伝子組み換え技術により、改良期間の短縮や改良範囲の拡大が実現されたともいえます。
日本国内で認定されているGMO作物は、当サイトの別ページでも紹介しましたが、以下になります。
日本で使用が認められているGMO(遺伝子組み換え)作物
トウモロコシ
大豆
ナタネ・ワタ
テンサイ
ジャガイモ
アルファルファ
パパイヤ
からしな
GMO作物の栽培を行っている国は、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダなどです。
日本に初めて遺伝子組み換え作物が輸入されたのは1996年で、以後輸入量は増加しています。
日本国内へのGMO作物の輸入は行われていても、国内での栽培は現状では行われていません。
そして、これら遺伝子組み換え食品についての表示義務はどうなっているのでしょうか。
大雑把にですが記しますと、これらは表示義務のある食品と、表示義務のない食品とに別れ、
例えばトウモロコシを使った食品の場合、コーンスナック菓子、コーン缶、ポップコーン、
コーングリッツ、コーンスターチなどは表示義務のある食品、表示義務のない食品としては、
果糖ブドウ糖液糖などの糖類、コーンフレーク、水飴、その他。
一方、大豆を使った食品で表示義務があるのは、豆腐、きな粉、油揚げ、大豆煮豆、
納豆、豆乳、味噌など。表示義務のないものはサラダ油、植物油、マヨネーズ、マーガリン、
ショートニングなどの油製品。
ややこしいですね。
そして消費者にとって気になるこの「GMO作物を使用したか、不使用か」の表示が、
令和5年4月1日から厳格化され、「GMO作物不使用(遺伝子組み換えでない)」を
表示できるのは、遺伝子組み換え食品の混入が無い状態でなければ表示はできなくなりました。
たとえば醤油なら、ラベルの裏面に「大豆(遺伝子組み換えでない)」との表示がよく見られた
と思いますが、「混入率無し」との厳格化により、「分別生産流通管理済み」「遺伝子組み換え混入
防止管理済み」との表示に変わっている商品が多くなったかと思われます。
分別生産流通管理済み、とは、生産、流通、加工の各段階で遺伝子組み換えでない農産物を、
遺伝子組み換え農産物との混入が起こらないよう管理し、その事が書類などで証明されている事です。
IPハンドリング証明ともいわれています。
しょうゆや植物油などは現状の最新技術によっても組み換えDNAなどが検出できない
ため、表示義務は無いのですが、製造メーカーがあえて「分別生産流通管理済み」
「遺伝子組み換え混入防止管理済み」の表示をしている商品が多く見られます。
消費者へのアピールもあるのでしょう。
表示が厳格化され、表示義務もある点は結構なことに思えますが、穿った見方をすると、
表示を複雑化し、消費者に実態を掴みにくくする思惑があるのでは、とも感じます。
サラダ油、植物油、マヨネーズ、マーガリン、ショートニングなどの油製品は表示義務のない
食品になり、メーカー側が表示していなければ実態は把握できません。
スーパーの食品コーナーにはこうした隠れたGMO作物を使用した食品が並んでいるといえます。
まだ安全性の確認や確立がなされていないため、GMO作物に対して消費者が抵抗感を示し、
製造側も慎重になるべきですが、GMO作物が原因と見られた死亡事故が過去にアメリカで
起こりました。
1989年にアメリカで発生した大規模な健康被害事件 トリプトファン事件
これは必ずしも遺伝子組み換え食品が原因と断定されたわけではありませんが、
起因するのでは、と疑われている出来事です。
この事件は1989年にアメリカで発生した大規模な健康被害事件で、栄養補助食品として
販売されていたアミノ酸「L-トリプトファン」を摂取した人々に重篤な病気が発生した
出来事です。具体的には、多くの人々が「好酸球増多筋痛症候群(Eosinophilia-Myalgia
Syndrome, EMS)」という、重い筋肉痛や神経症状を引き起こす稀な病気を発症し、
数十人が死亡、数千人が障害を負ったと報告されています。
これは、日本の昭和電工という企業が、バクテリアの遺伝子組み換えを行なって
トリプトファンを製造した際、精製過程が不十分であったため発生した不純物が原因と
結論付けられていますが、どの不純物が病気を引き起こしたのか具体的な特定はされていません。
また原因は遺伝子組み換えではなく、サプリメントの過剰摂取ではないか、
との研究報告もあります。
しかし、この出来事の発生源である栄養補助食品が遺伝子組み換え技術を用いていた事から、
遺伝子組み換えが危険視される大きな要因になったといえるでしょう。
この出来事が起こってからアミノ酸サプリメントの製造と品質管理に対する規制が
世界的に強化されてもいます。
このような健康被害が起こったのですが、アメリカではGMO作物が多く出廻り、特に大豆と
トウモロコシは90%以上がGMO作物となり、従来型はほぼわずかになっています。
アメリカに比べると、EU(欧州連合)諸国ではGMO作物に対しては厳しい規制で臨んでおり、
トレーサビリティ規則の元、運営管理がなされています。
※トレーサビリティ規則
販売者が購入者にGMO作物を含む旨を書面で伝える事が求められ、
事業者はGMO関連製品の取り扱いに関する記録を5年間維持する事が義務付けられている。
表示についてもGMOを含む、あるいはGMOを用いて製造された商品には表示が必要。
混入が0.9%以下で、意図せざる場合、技術的に混入が不可避の場合は表示が免除。
ゲノム編集食品とは その表示義務について
GMO作物とともに、ゲノム編集食品もこれから出回り始めそうです。
このゲノムとは、生物が持つ遺伝情報全体の事とされ、その生物の設計図のようなものであり、
その遺伝情報を構成するDNAの一部を切断したり、編集したりしてその生物が持つ設計図を変えて
しまう技術がゲノム編集だとされます。
ゲノム編集技術によってその生物には無い遺伝子を外部から組み込む事もできるようですが、
前述のGMO作物に対する消費者の抵抗感もあるせいか、この開発はあまり進展していないようです。
外部から遺伝子を組み込まず、特定の遺伝子を切除するだけの場合は、単なる編集・改良で
あるから問題は無い、として現状はゲノム編集食品は表示義務も無しで流通が可能になっています。
販売する企業は厚生労働省へ事前相談をして届け出るのみとされ、非常に簡単です。
このゲノム編集食品については現状、安全性に問題無し、とされており、その理由は
「ゲノム編集が自然界で起こる突然変異と原理を同じくしているから」のようです。
遺伝子の改変は自然界でも偶発的な形で起きており、突然変異、と表現されています。
この突然変異と同じ原理とはいえ、人間が人為的に遺伝子の編集・改変を加えた行為が
自然界の突然変異と同じだと解釈するのはあまりに強引な解釈と思えます。
ほか、その食品に遺伝子の改変が見られても、それがゲノム編集の結果によるのか、自然界の
突然変異によるものか見極めがつかない、との理由をあげています。
これに対し、「ゲノム編集された遺伝子にはその痕跡が残るので、自然界で起きた突然変異と
の区別がつくはずだ」と明言する専門家の意見もあります。
成分表示を義務化してもらいたいゲノム編集食品ですが、日本では2021年にGABAを
高蓄積したトマトが開発され、実際に市販がされています。GABAは興奮した神経を鎮める
神経伝達物質で、血圧上昇を抑える働きがあるとされます。通常のトマトよりこの成分が
約5倍に増えている事が特徴です。
遺伝子は、活性を促す遺伝子と、抑制をする遺伝子が有り、その双方で調和を
図る定常性が備わっているとされますが、このトマトはゲノム編集により抑制遺伝子が
破壊され、GABAを常時活性、生産するようになったトマトです。販売に際し、消費者への
情報提供を行うように、との条件はあるようですが、表示の義務化はされていません。
日本で初めてのゲノム編集食品であるこのトマトは「シシリアンハイルージュ・
ハイギャバトマト」と呼ばれ、サナテックシード株式会社が主導し、各家庭に無償で
配布された経緯もあります。
2022年、2023年には障害福祉施設や小学校にも配布計画がなされていましたが、
これらの計画について具体的な実行報告は公表されていないようです。
この計画については食品業界の知識人の方々から、安全面での確認が済んでいない
食品を無償で配布を行うのは危険で無責任であるとの非難も出されています。
上記のゲノムトマトと同じように、ゲノム編集をして身肉を厚くしたゲノム編集マダイも
開発が進んでいます。 ゲノムトマトと同じく、マダイの筋肉細胞の増加を抑制する遺伝子を
除去する事で、活性を促す遺伝子のみで筋肉を増加させ、マッスル・マダイを誕生させるのです。
ゲノム編集食品は従来の品種改良に比べて1~4年、かなりな短期間と低コストで希望の品種を
誕生させる事ができるとして期待されていますが、安全面での確認は未知数です。
ゲノム編集食品についての世界各国の状況
ゲノム編集食品を商業的に販売している国は、現在のところ主に以下の国々が挙げられます。
1. 日本
日本では、2021年に「シシリアンルージュ・ハイギャバトマト」が
最初のゲノム編集食品として承認され、実際に市販されています。ゲノム編集食品に
対する規制が比較的緩やかであり、消費者への情報提供を徹底することを条件に
流通が許可されています。
2. アメリカ
アメリカではゲノム編集技術を活用した農産物がいくつか市場に出回っています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ゲノム編集作物について、特に新たな外来遺伝子を
導入しない限り、GMOほど厳しい規制をしていません。アメリカでの例としては、
ゲノム編集された大豆があり、油脂の品質向上を目的として開発されました。
これらは商業的に活用され、既に販売されています。
3. アルゼンチン
アルゼンチンでは、ゲノム編集作物に関する規制が比較的柔軟で、ゲノム編集技術を
使用した作物が栽培されています。アルゼンチンの規制当局は、新たな外来遺伝子を
含まないゲノム編集作物は、GMOに分類されないと判断し、規制が緩和されています。
これにより、さまざまな農産物の商業化が進んでいます。
4. ブラジル
ブラジルでもゲノム編集作物が活用されています。政府は、GMOほど厳しい規制を
適用していませんが、ゲノム編集食品の商業化には安全性と環境への影響の評価が必要です。
これにより、特定の作物や食品が市場に出回りつつあります。
5. カナダ
カナダでもゲノム編集食品の開発が進んでおり、規制がGMOよりも柔軟なため、
商業化の動きが見られます。カナダでは、食品の安全性に関する評価が行われた上で、
市場で販売されています。
他国の状況
他の国々でもゲノム編集技術に基づいた研究開発が進んでいますが、
消費者の受け入れや規制の整備により、商業化の速度には差があるようです。
特に欧州連合(EU)は、ゲノム編集食品をGMOと同じく厳格な規制下に置いており、
商業化はほとんど進んでいません。
遺伝子組み換え作物やゲノム編集食品について考えてきました。
これらの作物はまだ食品として出廻り始めた年数が浅く、安全性の確認がなされていません。
フランスのあるご教授の方が出された論文によると、ラットを使った研究で、
遺伝子組み換えトウモロコシを飼料として育てたところ、短期の90日間では無症状ながら、
それ以上の飼育期間を経るとガン細胞の腫瘍が発露し始めた、との研究結果もあるようです。
(このご教授の研究論文は、正式な研究に基づいた反論論文も無いままに後に撤回されるに
至った様で、こうした経緯は学会でも異例の事なのだそうです。)
消費者側も値段が安いから、手軽で簡単だから、という理由だけでなく、その食品が何から
製造されているのか、どういう経緯を辿っているのか注視する必要を感じます。