2025年の米不足・価格高騰が示す構造問題
2025年、コメの価格高騰はまだ落ち着く気配がありません。今年も猛暑で、
降雨雨量が少なく日照りによる不作が懸念されていましたが、後半には雨も降り、
不作は避けられたともいえますが、政府による随意契約の備蓄米放出がなされた一方で、
家庭用米は値上がりが鮮明で、外食産業や食品メーカーでは供給不安も表面化しそうです。
こうした事態は、自然災害や一時的な要因ではなく、長年にわたる日本の農政の構造的な
失敗が噴出した結果だと多くの専門家が指摘します。
その中でも、東京大学大学院特任教授で食料安全保障の専門家・鈴木宣弘氏は著書
『もうコメは食えなくなるのか』の中で、政府の誤った政策運営、特に減反政策とコスト
押し付け型の農政が今日の危機を招いたと警鐘を鳴らしています。

もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは
(講談社+α新書) [ 鈴木 宣弘 ]
本記事では、鈴木教授の指摘と現在の情勢を踏まえ、日本の農政が克服すべき課題を整理し、
今後の食料安全保障のあり方について考察してみます。
1. 減反政策が残した深い傷──生産力の縮小と担い手消失
半世紀以上にわたり続いた減反政策は、「コメ余り」を前提に生産を抑制し続けてきました。
その結果、次のような深刻な後遺症が残りました。
- 耕作放棄地の増加
- 農業人口の急減、担い手不足
- 生産基盤の脆弱化
- 国内自給力の低下
特に担い手の減少は顕著で、鈴木教授は「減反政策が農業の未来を奪ってきた」と
解説されています。
これは現在のコメ不足と価格上昇に直結していると思えます。
2. 農家に負担を押し付ける構造──“安値強制”の供給体制
鈴木教授は、政府と流通構造が農家に「安値で売ること」を強制してきた点を問題視されています。
生産コストは高騰する一方で、米価は抑えられ、農家の手取りは減少し続けました。
米だけでなく、牛乳・酪農が危機的な状況にもなっていました。需給は緩んでいるので乳価格は
上げられない、といい、さらに、脱脂粉乳が余っているのでそれを消費するための負担を酪農家に
負担させている。近年は北海道や九州の酪農家が倒産寸前の状況に陥っていたはずです。
「食料・食材の不足は輸入で間に合わせればよい」との安易な政策・指針が伺えるのです。
生産意欲の低下は必然であり、生産量が落ちれば供給不足が進み、
今日のような価格上昇につながります。
3. 備蓄米の制度疲労──“備蓄があっても危機が起きる”理由
政府は備蓄米を市場へ放出していますが、それでも家庭用米の値上がりは止まっていません。
これは備蓄制度そのものが、もはや現状のリスクに対応できていないことを感じます。
鈴木氏は「備蓄量の絶対値が減っていること」「備蓄米の質や用途が制限されていること」が
大きな問題だと警鐘を鳴らします。
日本の備蓄米は、食料安全保障として十分な量に達しているとは言い難く、制度の抜本的な
見直しが求められます。例えば、中国は食糧危機の際には14億人が1年半に渡り食べていける
食料を確保していますが、日本の場合はわずか1ヶ月半程度だとされます。
危機的な凶作状態でもないのに備蓄米を放出、それでも一般的な銘柄米の価格は下がらない、
2025年度は日照りの凶作は回避できましたが、かなり備蓄米の放出を行ったので当然備蓄量も
減っています。
農政の失策を感じるのですが、この米問題に関し鈴木教授は、財務省を強く非難されています。
財務省は国の土台とも言える農業を軽視し「削るための予算の調整弁」として扱い、約50年前には
国家予算の12%を占めていた農水予算を現在は2%未満にまで削減しています。
国際的な諸問題に臨む際、食料を他国に依存した状態で堂々と発言ができるでしょうか。
国民はこの食料問題を切実に捉えておかねばならないと感じます。
例えば台湾では、ラクトパミンが使用された豚肉がアメリカから輸入されることについて
国内で猛反発が起こりました。しかし、中国との間で国防問題を抱えている台湾ではアメリカとの
関係を損ねる訳にはいかない為か、ラクトパミン問題は妥協したかに思える結果に至っています。

日本もアメリカとの軍事的連携を解消もできず、食料まで他国に依存した状態で
自国の主張が可能でしょうか。
4. 輸入依存リスクの増大──国際市場はすでに不安定
日本は主食用米のほとんどを国内で賄ってきましたが、需要減による構造的変化の中で、
飼料・加工用米や小麦・飼料の輸入依存度は高まっています。
しかし現在、国際穀物市場は以下の要因で不安定さを増しています。
- 気候変動による不作リスク
- ロシア・ウクライナ情勢の長期化
- 主要輸出国の輸出規制(インドなど)
輸入依存を強めることはリスクの増大に直結します。
鈴木氏は「国内生産の維持強化以外に安全保障の道はない」と強調します。
▼関連記事:農家が安心してコメを増産できる環境を作らなければ、
令和の米騒動は今後何度でも再発するだろう(鈴木宣弘)
5. 日本の農政が克服すべき課題──“生産回復”に舵を切れるか
2025年のコメ不足は偶然ではなく、構造的必然でした。
ここから脱却するための課題は明確になっていると思えます。
鈴木教授は食料を単なる商品ではなく「国民の命を守るインフラ」として位置付け、
国内で消費する食料を自国内で生産する「国産国消」を掲げ、生産コストを政府が補填する
仕組みを整えれば、農家が赤字を恐れずに生産を継続できる事を解説されています。
(1)減反政策の後遺症からの脱却
生産力を回復させるために、農地を再活用し、担い手を支援する政策が必要です。
(2)コストを農家に押し付けない価格形成
適正な生産者価格を保障しなければ、国内生産は維持できません。
(3)備蓄制度の拡充と強化
備蓄量の増強だけでなく、用途の柔軟化も求められます。
(4)輸入依存のリスク削減
国際市場は不安定さを増しており、国内供給力の回復は最重要課題です。
6. コメ価格高騰は“兆候”であり“警告”である
2025年の米価上昇は、単なる一時的な価格変動で終わるとは思えません。
長年の政策失敗が積み重なり、ようやく“表面化した結果”に思えます。
鈴木宣弘氏の指摘するように、米問題を注視しなければこのままでは
「日本人が主食としてコメを食べられなくなる未来」は十分にあり得るのでは
ないでしょうか。
その未来を避けるために、日本の農政は今こそ大転換を迫られています。
7. 日本の食料安全保障をどう再構築するか
日本の農業を立て直す手段は明確に感じます。
- 国内生産力の強化
- 農家の所得を安定させる制度改革
- 備蓄戦略の再設計
- 輸入依存を前提としない供給体制の確立
これらを実行しなければ、日本は国際市場の変動に翻弄され、食料安全保障は崩壊しかねません。
食料問題に関する深刻な状況をはっきりと認識しておきたいところです。
知らない、気付いてもいないという状態が被害を拡大してしまいます。
2025年のコメ不足と価格高騰は、日本の農政の転換点となるべき
重大な警告ではないでしょうか。
