🐄 アニマルウェルフェアと畜産|養鶏・養豚・牛の飼養が変わる
家禽 家畜の飼育形態
前ページでアニマルウェルフェア (AW)が動物園でも積極的に実施、取り入れ
られている記事を挙げました。
ここでは畜産業、養鶏場などの飼育環境はどういった状態であるのかを考えて観ます。
アニマルウェルフェアは、食肉や卵、乳製品の生産現場でも重要なテーマになって
います。養鶏・養豚・牛の飼養環境の見直しは、ヨーロッパではすでに標準化され、
日本でも動きが広がっています。
この背景には、「いのちをいただく」ことへの社会的な意識の高まりと、感染症・
品質リスクの顕在化があります。
🌿 5つの自由と畜産現場
畜産分野でも、動物園と同様に「5つの自由」が基本です。
- 十分な餌と水
- 快適な環境
- 痛み・病気からの解放
- 本来の行動ができる空間
- 恐怖とストレスのない飼養
これらを守ることは、動物の福祉だけでなく食品の安全性・品質向上にも直結します。
養鶏のアニマルウェルフェア
従来のケージ飼育の問題点
日本の多くの養鶏場では、長年「バタリーケージ(集約型ケージ飼い)」が主流でした。
しかし、近年ではこの飼育方式のリスクが顕在化しています。

▫️無窓鶏舎での感染症拡大
従来型の大規模ケージ飼育では、光を遮断した無窓鶏舎が一般的です。
これは温度・湿度管理をしやすいという利点がある一方で、
- 換気が不十分になりやすい
- 同一空間で何万羽もの鶏を密飼いする
- 鶏同士が密着し、病原体が急速に拡散
この結果、鳥インフルエンザなどの感染症が一度発生すると爆発的に広がる
ケースが多く報告されています。
2004年、日本で79年ぶりに鳥インフルエンザが発生した後、野鳥や渡り鳥が
ウィルスの運び屋とされ、農林水産省指導でウィンドレス(無窓鶏舎)建設が推奨
され、建設費に補助金なども出され近年の鶏舎は多くが無窓鶏舎の作りの様ですが、
鳥インフルエンザが発生した鶏舎の多くがウィンドレス鶏舎で、無窓の作りであっても
ウィルスの侵入を100%防げるわけでもなく、ウィルスを運ぶ小動物からすると
こうした作りも隙だらけという指摘もあります。
国連タスクフォースでは、鳥インフルエンザのパンデミックの原因の一つとして
“膨大な数の動物を小さな空間に密集させる” 飼育方法をあげていますが、日本の
主流であるバタリーケージ(集約型ケージ飼い)はまさにその飼育方法になっている
といえるでしょう。
日本だけでなくこれまではこの様な集約型ケージ飼いが主流であったかと思いますが、
この飼育法はアニマルウェルフェア の注視と共に諸外国では使用禁止の動きが出ています。
▫️運動不足とストレスの増大
1羽あたりのスペースはA4用紙1枚以下という非常に狭い環境も少なくありません。
体育館の様な広い館物の中に大量の狭いケージに収容され、羽ばたくことも砂浴びもできず、
- 足腰の筋力低下
- 骨折や脚弱症
- 行動欲求の不満によるカニバリズム(仲間つつき)
といった問題が頻発しています。
▫️ストレスと疾病リスク
密飼いによる強いストレスは免疫力を低下させ、
- 呼吸器疾患
- 消化器系トラブル
- 羽毛の抜け落ち、皮膚病
- などの発生率を高めます。
その結果、抗生物質への依存度が高くなる傾向があり、薬剤耐性菌の温床と
なるリスクも指摘されています。
狭いケージでの不衛生な環境のためか、鳥には様々な薬剤が投与されていて
そこから採取される鶏卵からは残留農薬が検出される事もあり、2018年には
害虫駆除薬が基準値を超えて残留していた事から、日本から輸出した鶏卵が
台湾で輸入差し止めに至った例もありました。
こうした環境から採取される鶏卵は安く、消費者に歓迎される面もある
でしょうが、実態はこうした不衛生な環境もあり、また給餌の多くは遺伝子組み換え
トウモロコシが利用されるなど、こうした面も消費者は把握しておきたい点です。
ケージフリー(平飼い)の広がり
こうしたリスクを背景に、近年では「ケージフリー(平飼い・放牧)」の
飼育方法が注目されています。
- 鶏が羽ばたく・砂浴びをするなど自然な行動を取れる環境
- ストレス軽減による疾病リスクの低下
- 卵の品質・風味の向上
- 鳥インフルなど感染症リスクの局所化
消費者の意識変化に合わせ、オーガニック認証や自然派食品ブランドでは
ケージフリー卵が急速に拡大しています。
🐄牛のアニマルウェルフェア
牛舎では、**フリーストール(自由な歩行が可能)**や放牧が重視されるようになっています。
- 十分なスペースで行動を制限しない
- 乳質向上、疾病予防、ストレス軽減
- 環境負荷低減への貢献
ヨーロッパではすでに義務化されている国もあり、日本でも企業や農家単位での導入が進行中です。
🐖豚のアニマルウェルフェア
豚舎では「妊娠ストール(狭い檻)」の廃止が国際的な流れです。
- 豚が歩き回れる環境
- 社会的行動(群れで過ごす)を取れる環境の準備
- ストレスの少ない育成
日本でも輸出対応農場を中心に、国際基準を満たす飼養方法の導入が加速しています。
🏢日本アニマルウェルフェア畜産協会と企業の取り組み
「アニマルウェルフェア畜産協会」では、農家・企業向けに基準や認証制度を
整備しています。さらに、先進的な取り組みを行う企業や農家を表彰する「アニマル
ウェルフェアアワード」も注目を集めています。
食品業界では、
- ケージフリー卵の調達方針
- 放牧牛乳の導入
- 豚のストールフリー化
といった動きが拡大し、企業理念として掲げるケースも増えています。
🛒消費者の選択が社会を変える
この点は非常に重要というか大きな要点になると思います。
消費者が、購入する食材の飼育環境、飼料にまで関心を持ち把握しておく事で
品質に問題のある品を避けられます。
アニマルウェルフェアの発展には、消費者の意識も欠かせません。
- 認証マーク付きの製品を選ぶ
- 生産者の方針を調べる
- SNSや声を通じて企業へ意見を届ける
こうした消費行動が企業の調達方針を変え、結果として産業構造の改善に
つながっていきます。
何よりも消費者がこうした畜産環境の実態を知っていることが大事になります。
アニマルウェルフェアで変わる日本の養鶏・養豚のこれから
アニマルウェルフェア(動物福祉)は、単なる“理想論”ではなく、時代の潮流からすれば
世界的な畜産業のスタンダードになりつつある様に感じます。
従来の無窓鶏舎や妊娠ストールといった効率重視の飼育環境は、感染症の蔓延や家畜の
ストレス増加といった深刻なリスクを抱えており、そのあり方が問われています。
日本でも、企業や自治体が少しずつケージフリーや放牧などの取り組みを進めることで、
牛・豚・鶏の飼育環境は確実に変わり始めています。しかし、日本はまだAWの意識が低く、
EU諸国などに比べると認識が甘い様です。
元農林水産大臣の吉川貴盛氏が大手鶏卵生産業者から現金を受け取って収賄罪で
2021年1月15日に在宅起訴されています。業者が設備改修で多額の費用が掛かることを
嫌って吉川氏に働き掛けたことで、農林水産省は反対を強く表明し、ケージ飼いが
そのまま容認されたといわれます。(安田節子氏のご著書“私たちは何を食べているのか”より)
消費者が食品の経緯に関心を持つことが重要です。
こうした動きは、環境への負荷軽減、食品の安全性向上、そして何より“命を扱う産業”
としての倫理性を高める大きな一歩です。
そしてもう一つ重要なのが、消費者の選択です。アニマルウェルフェアに配慮した
畜産品を選ぶことは、生産現場を後押しし、社会全体の仕組みを変える力になります。
例えばEUでは「採卵鶏保護の最低基準」の中で卵に番号をスタンプする事が求められ
ていて、消費者は番号により、有機飼育、放し飼い、平飼い、ケージ飼い のどれに
該当する育成経緯か判別できる様になっています。
環境にしっかりと配慮がされた中で育成された鶏は免疫力が高く、インフルにも強い
とされます。
私自身長くオーガニックの地鶏を購入して料理に利用してきましたが、やはり
ブロイラー産よりも品質が高い事が仕上がった料理の味からわかります。
今後の日本の養鶏・畜産の発展において、アニマルウェルフェアはさらに
重視される事を感じます。
