家禽・家畜の品種改良|鶏 ブロイラー・豚の実態
家禽 家畜の品種改良の歴史
スーパーで鶏肉や豚肉を手に取るとき、“どの部位を買うか”を考えるだけで、
「その肉がどんな品種から生まれたか、飼育の経緯は?」といった実態までは
あまり気にしていないのではないでしょうか。
でも実は、目の前にあるそのお肉は、長い年月をかけた
家禽・家畜の品種改良の結果なのです。
かつては自然のままの鶏や豚を飼っていた人類が、
どうやって今の“スーパー効率型の家畜”を作り上げてきたのか。
このページでは、専門的な背景とちょっとした雑学を交えながら、
品種改良の裏側をわかりやすく考えてみます。
第1章 そもそも「品種改良」って何?動物で行われる理由
「品種改良」というと、野菜や果物をイメージする人が多いかもしれません。
でも、実は動物の世界でも品種改良は長くにわたって行われてきています。
しかも、食の安定供給を支える上で “なくてはならない技術” なのです。
品種改良とは、特定の性質を持つ個体を選んで交配し、次世代にその性質を強く残す
ことを目的とした方法です。たとえば、「卵をよく産むニワトリ」や「成長が早い豚」、
「肉質がやわらかい鶏」など、人間にとって都合のよい性質を代々積み重ねていきます。
動物の場合、品種改良の主な目的は次のような点にあります。
- 生産性の向上(成長スピードや卵・肉の量)
- 肉質の均一化(出荷時の品質を安定させる)
- 病気への耐性(飼育コストやリスクの低減)
- 環境への適応性(地域ごとの気候・飼育環境に対応)
つまり、品種改良は“便利さ”だけでなく、“持続的な生産”のための基盤でもあるのです。
ちなみに、現代的な品種改良が始まったのはおよそ20世紀半ば。
戦後の食糧不足を背景に「いかに少ないコストで、たくさんの食肉を供給するか」という
課題が世界的に重視され、鶏や豚を中心に改良が加速しました。
身近なスーパーのお肉の裏には、こうした歴史的背景があります。
第2章 鶏の品種改良とブロイラーの誕生
「卵用」と「肉用」に分かれた時代
鶏は、人間がもっとも早い段階で家畜化した動物のひとつです。
原種は東南アジアに生息していた野鶏で、数千年前から人々と関わり続けてきました。
昔は卵も肉も同じ鶏から得る「万能型」が主流でしたが、
20世紀に入ると鶏の役割は明確に分かれ始めます。
・卵を産むことに特化した → レイヤー(採卵鶏)
・肉をとるために育てる → ブロイラー(肉用鶏)
この「ブロイラー」の誕生こそ、鶏の品種改良の象徴といえます。
自然の鶏では出荷サイズに育つまで4~6か月かかっていたのが、ブロイラーでは
約40~50日で出荷可能。成長スピードと肉質を高めるため、複数の系統を計画的に
交配することでこの驚異的なスピードが実現しました。
また、繁殖方法も徹底管理されています。
「種鶏」と呼ばれる親鶏が厳選され、人工授精やインキュベーター(孵卵器)を使って
ヒナが計画的に生まれます。生産ラインのように効率化されているのです。
別ページで述べましたが、日本を含め世界中のほとんどのブロイラーは、
アメリカのAviagen社とCobb Vantress社が育種したものでこの2社で作られた「原種鶏」や
「種鶏」が世界中に輸出されています。
「原種鶏」に卵を産ませて「種鶏」を増やし、その「種鶏」からさらに卵を産ませて
孵化した雛が肥育場に運ばれ、太らされて「食肉」にされる経緯です。(安田節子氏の書籍より引用)
さらに、鶏の「飼い方」にも違いがあります。
- ケージ飼い:狭いスペースで多く飼える主流方式。効率重視。
- 平飼い:地面で自由に動ける飼育法。ヨーロッパや有機農業で多い。
- 放し飼い:より自然に近い方式で、法律や衛生管理基準も厳格。
法律的には、日本でも「平飼い」「放し飼い」の基準は明確化が進みつつあり、
アニマルウェルフェアの観点からも注目されています。
実はスーパーで見かける“平飼い卵”も、こうした流れの中で広まっているんです。
採卵鶏(レイヤー)の実態についても記述しておきます。
レイヤーとして孵化したひよこはオスの場合、卵を産まないとして殺処分されます。
初生雛鑑別師によってオスとメスに分けられ、オスはそのままゴミ袋に入れられ窒息、
または圧死、それか意識がある状態で粉砕され、殺処分されます。日本卵協会資料によれば
処分されるオスのひよこは年間で1億羽くらいと想定されている様です。
アニマルウェルフェア の観点からか、イギリス、オランダではガスによる処分が
行われるようになり、他にも海外ではオスひよこを処分せずに済む様、卵肉兼用の鶏種を
飼養する取り組みが検討されてもいます。
第3章 豚の品種改良とリスク管理|「効率」と「多様性」
豚は、鶏に次いで品種改良が進んだ家畜です。
日本でも「ランドレース種」「大ヨークシャー種」「デュロック種」などがよく
知られていますが、これらはすべて長い改良の歴史を経て今の姿になっています。
豚の品種改良では次のようなポイントが重視されています。
- 成長が早い → 短期間で出荷できる
- 肉付きが良い → ロースやバラなどの歩留まり向上
- 病気に強い → 生産リスクの低減
- 環境適応力が高い → 気候や飼育環境に対応
こうした改良のおかげで、今日の養豚業は少ないコストで安定した供給が可能になっています。
一方で、豚の品種改良にはデメリットもあります。
同じような品種ばかりが増えると、遺伝的多様性が失われ、ある病気が
流行したときに全体が打撃を受けるリスクが高まるのです。
実際、過去にヨーロッパでは豚インフルエンザの流行時、
似たような品種ばかりだったため被害が拡大した例もあります。
つまり、品種改良は「効率」と「リスク管理」のバランスが重要。
一方向に偏ると、かえって生産体制が脆弱になることもあるのです。
これは鶏でも同様です。
第4章 これからの品種改良|効率だけでなく尊厳と倫理
これまでの品種改良は、「いかに効率的に生産するか」が最大のテーマでした。
しかし、近年ではその方向性に変化が起きています。
たとえば鶏では、「卵や肉の味」「飼い方の透明性」「アニマルウェルフェア(動物福祉)」
といった、その食肉がどういった経緯を経てきたかが重視されるようになっています。
「平飼い卵」や「放し飼い鶏」が人気を集めているのも、単なる安さではなく「安心・信頼感」
を求める消費者が増えている様に思えます。
さらに、ゲノム編集などの新技術も登場し、
「狙った性質だけをピンポイントで改良する」時代が近づいています。
成長スピード、病気耐性、環境負荷の少なさなど、多方面から改良が可能になることで、
これまでにない新しい家畜像が描かれつつあります。
とはいえ、食の根幹に関わる分野だからこそ、
安全性や倫理性への慎重な姿勢も欠かせません。
「どこまで改良を進めるべきか」という議論は、
今後ますます大きなテーマになる様に思えます。
ゲノム編集食品などはまだまだ安全性、法整備も
確立されておらず、購入の際は注意しておきたい点です。
食肉の裏にある、品種改良の過程
今、私たちが手にしている鶏肉や豚肉は、自然のままの姿ではありません。
何世代にもわたる品種改良の結果、効率的に、安定的に、そして比較的安価に
供給できるようになったものです。
もし鶏肉や牛肉豚肉の購入の際、普段は品種や経緯を気にせず購入されている場合は
是非その“お肉の裏側”にも目を向けてみてください。
・ブロイラーという高速成長型の鶏
・品種改良によってつくられた豚の系統
・平飼いや放し飼いといった多様な飼育スタイル
といった、たくさんの選択と品種改良の技術が隠れています。
“食肉の裏側にも目を向けて” とは言っても、例えばその鶏や豚がどういった
飼育環境を経てきたか、何を食べて育ったか、飼料まで記載されているわけでは
ありませんのでパッケージをみただけでは解らない部分もありますが、家畜達の
実態は把握しておきたいところです。
前述のオスひよこの殺処分の経緯や、ブロイラーの鶏も品種改良により高速で成長
させられ、かつ本来の生体よりも大きく太る様に改良されたため、自然の摂理に反する
短期間での成長に膝の関節や骨格が体重の増加とアンバランスになり、脚弱、起立不能、
心臓疾患、腹水症などの症状を起こしています。

あまりにも人間側の都合のみで家畜たちの生体や
環境に対する倫理がなかったと感じます。
過去にあった狂牛病も人間側の都合のみ追求した結果
起こった現象ではないでしょうか。
豚も高速成長の改良を重ねた結果、脚弱状態になり立てない豚が出ています。

欧州食品安全機関は「ほとんどの研究が、骨軟骨症と成長率の間に相関関係があり、
高い成長率を選択することの負の副作用を示している」と公表しています。
EU諸国は行き過ぎた人間都合の畜産業態のアンバランスを整えようとしている様です。
アニマルウェルフェア を重視し、高速短期で成長する鶏よりも「ゆっくり成長する鶏」が
取り入れられ、フランスなどは厳格な鶏の基準(Label Rouge)を設け、これに基づいて
育てられた鶏肉が通常価格の2倍になるにも拘わらず市場で25%を占めるとも
言われています。
日本でもよく知られたダンキンドーナツ、バーガーキングなどの企業も
アニマルウェルフェア に基づいた食材の選択、飼育密度や屠殺方法などに
おいて動物福祉基準を公表しています。
日本も国産の「地鶏」が各地に存在しており、価格は高めですが、やはりブロイラー産より
も美味しいです。しかし、地鶏はブロイラーと比べて成長が遅くその分コストも掛かるせいか、
鶏肉市場シェアにおいてはごく僅かに留まっている様です。
家禽 家畜の品種改良の過程を観てきました。経済面の追求のせいで
家畜の飼育環境や生体への配慮が足りないと感じますが、それでもなお国の
「家畜改良増殖目標」は「引き続き増体性に関する遺伝的能力の向上を図る」との
方針が重視されている様です。
こうした方針に対しては消費者が食用肉の裏側、実態を把握しておき、
安全性に疑問が残る、不確かな食品には不買の姿勢を示すことも重要かと思います。
台湾ではラクトパミン(餌に混ぜる成長促進剤)を使用したアメリカ産豚肉の輸入の賛否が
国民的問題にまでなった例がありますが、日本では消費者間でここまで大きな食品の是非を
問う様な動きは出ていないのではないでしょうか。(ラクトパミンは国内で使用は認可されて
いませんが、輸入肉については厳しい規制は無い様です)
ラクトパミンを使用した豚肉は、その肉や内臓を料理に利用して食べる事で中毒症状を
起こした事例が報告され、EU諸国、中国、ロシアでは国内使用も輸入も禁止措置を
とっています。
不衛生、不健康な生体から加工された畜肉は人体の健康にも望ましくない、
アニマルウェルフェア に基づいた環境整備と食肉の裏側への視点も持っておきたい
ところです。


