鳥インフルエンザとは? 北海道白老町・恵庭市で起きた 現実と防疫の最前線
2025年秋、北海道の空を渡る渡り鳥たちが、またやってきました。
白老町、そして恵庭市――。どちらも自然豊かな町で、朝には鶏の鳴き声が響く
穏やかな日常がありました。
しかし10月22日、白老町の養鶏場で「高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)」が確認され、
続く11月1日には恵庭市でも感染が判明。
数十万羽の鶏が殺処分され、鶏舎は現在静寂に包まれた状態のようです。

この記事では、農林水産省やWHOなどの公的情報をもとに、
鳥インフルエンザの正体・感染経路・殺処分の理由・防疫措置・人への影響
をわかりやすく解説します。
鳥インフルエンザとは?――自然界と家禽のあいだに潜むウイルス
鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスの一種で、特に鶏やアヒルなどの
家禽に感染する感染症です。
自然界では、カモやガン、ハクチョウなどの渡り鳥がウイルスの自然宿主となり、
飛来地で糞便を通じて環境にウイルスを拡散させます。
このウイルスには「低病原性(LPAI)」と「高病原性(HPAI)」があり、後者は鶏が
感染するとほぼ100%死亡する強い病原性を示します。
感染が確認されると、感染区域全体が防疫措置の対象になります。
“見えないウイルスが、人と自然の関係を静かに問いかけている。”
2025年、北海道白老町・恵庭市で起きた感染事例
白老町では2025年10月22日、採卵用の鶏およそ46万羽を飼育する養鶏場で
感染が確認されました。
続いて11月1日、恵庭市でも同じく採卵用の鶏およそ23万6千羽が感染疑いで殺処分対象に。
両地域合わせて約69万羽が殺処分され、これは北海道内の採卵鶏全体の約12%に相当します。
道内の卵供給にも一時的な影響が生じ、地域経済と畜産現場に大きな衝撃を与えました。
“感染は一瞬、再建は数年。その重みを知っておきたい。”
感染経路はどこから?――渡り鳥、野生動物、そして人の動線
主な感染経路として、以下のようなものが知られています:
- 渡り鳥の糞便や分泌物を介した環境汚染
- 靴底・車両タイヤ・飼料袋などを介した人や物の移動
- 野生動物(カラス、ネズミなど)による間接的な持ち込み
特に北海道はシベリア方面からの渡り鳥が多く、秋から春にかけて感染リスクが高まります。
防鳥ネットや消毒マットを設けても、100%防ぐことは極めて困難です。
農林水産省も、「感染源の多くは野鳥由来」であると公式に発表しています。
(引用元:農林水産省「高病原性鳥インフルエンザに関する情報」)
なぜ殺処分なのか?――“守るための痛み”という現実
感染が確認された場合、「1羽でも残してはいけない」という厳しい原則が適用されます。
理由は、ウイルスが鶏舎内に残存すれば、再感染や地域拡大の危険があるためです。
家畜伝染病予防法に基づき、感染確認から72時間以内に全羽殺処分が行われます。
これは、他の農場への感染拡大を防ぐための「時間との戦い」です。
現場では自治体職員、自衛隊、防疫作業員が徹夜で対応にあたり、感染区域の出入りを
厳重に制限します。 作業員の心身への負担は大きく、“命を守るために命を断つ”という
苦しい判断が下されます。
罹患した鳥の症状とウイルスの猛威
罹患した鶏は次のような症状を示します:
- 元気がなく、餌を食べなくなる
- 羽を膨らませ、動かなくなる
- 卵を産まなくなる
- 首のねじれ、けいれん、出血斑
- 数時間~数日で死亡
特にH5N1型やH5N6型は致死率が高く、国内で検出される主要株です。
感染スピードは驚異的で、発見がわずかに遅れただけで全群感染に至ることもあります。
殺処分後に行われる防疫措置――“終わり”ではなく“始まり”
殺処分の後には、次のような徹底した防疫措置が行われます:
- 鶏舎・機材の消毒:石灰散布、次亜塩素酸ナトリウム洗浄、加熱滅菌
- 埋却処理:敷地内または指定地において、地中1.5~2mに深く埋却
- 環境検査:ウイルス残留確認試験を実施し、陰性確認まで立入禁止
- 封鎖解除:通常、発生から約90日~180日を経て解除
これらの作業は、北海道庁や農林水産省、自衛隊の連携によって実施されます。
(参考:北海道庁「高病原性鳥インフルエンザ発生状況」)
再建への道――閉じた鶏舎に再び命が灯るまで
再建には長い時間が必要です。鶏舎を再利用する場合、まず徹底的な除菌と
防疫検査を経て、数ヶ月後に立入制限が解除されます。
その後、養鶏業者は業者から親鳥や雛を新たに導入し、再び採卵体制を整えます。
ブロイラー生産の場合は、祖父母鶏→親鳥→雛という三段階の系統飼育が必要で、
完全再建まで1年以上を要します。
白老町や恵庭市でも、町と北海道が支援金や再建計画を協議中です。
鳥インフルエンザ感染の鶏肉・卵を食べたら?――人への影響を正しく知る
厚生労働省およびWHOの見解によると、加熱調理(中心温度70℃以上で1分)すれば
ウイルスは完全に死滅します。
さらに、日本の検査体制では、感染した鶏や卵は流通前に廃棄処理されるため、消費者が
感染品を食べることはありません。
感染した鶏肉や卵を食べても、人に感染することはない――これは国際的な科学的共通認識です。
(参考:WHO「Avian influenza (Bird flu) factsheet」)
私たちが意識すべきは「恐れること」ではなく、「正しく知ること」。
それが、食と命を守る最初の一歩です。
まとめ――“命を守るために命を断つ”という矛盾の中で
白老町と恵庭市の出来事は、私たちに多くの問いを投げかけました。
「命とは何か」「防疫とは何を守ることなのか」。
ウイルスと共存する時代、完全なリスクゼロはありません。
しかし、科学と地域の連携によって、被害を最小限に抑える努力が続けられています。
オーガニック畜産やアニマルウェルフェアの観点からも、“命を大切にする仕組みづくり”が
これからの課題です。
“食べることは、動物たちの命をいただく事。”
鶏肉や牛肉・豚肉を購入する際は 家禽・家畜の飼育環境にも思いを馳せ
畜産業態の環境向上も考えたいものです。
情報ソース
- 農林水産省:高病原性鳥インフルエンザに関する情報
- 北海道庁:鳥インフルエンザ発生状況
- WHO:Avian influenza (Bird flu) factsheet
- WOAH(OIE):Avian influenza portal
本記事は、公的情報および科学的根拠に基づいて執筆されていますが、
最新の感染状況や防疫措置については公式発表をご確認ください。

